小さな幸せ  
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2001年10月30日


 私はいつも梅田から阪急電車の始発に乗って帰りますが、指定席は運転手さんと反対の一番前の席です。その席だと展開する景色も楽しいし、もし居眠っても進行方向のガラスに頭をも垂れかけておくとぐらぐらせずに隣の人に迷惑をかけなくてすむからです。
 つい先日のことでした。梅田で私がいつもに席に座った後、若いお父さんと小学一二年生位と幼稚園児位の男の子二人が乗ってきました。私と反対のやっぱり一番前の席から座りました。
しかし運転手さんの方にはブラインドがかかっていて前の景色が見えません。
 子供達が「みえないよおー」とお父さんに訴えています。小さい子供の時、外の景色を見るのが大好きだった私は、彼らの気持ちがすぐに伝わってきて「こっちだったら見えますよ!」と思わず立って席を替わりました。「あ・どうも」とお父さんが言っただけで、子供ははにかんだ様にしてすぐに景色に夢中になりました。お父さんがすれ違う電車の説明をしたり、なんやかやと景色を楽しむ会話が聞こえてきます。
 私はああよかったと思う反面、ちょっと物足りないものを感じていました。 この頃の子供は自然に「ありがとう」と言う言葉が出てこないんだなーと思っていたのです。
  彼らは私より手前の駅で降りました。そのときにお父さんが丁寧に「ありがとうございました」と深くお辞儀をされたのです。それにつられるようにして年下の子も「ありがとう」と言ってくれました。お兄ちゃんの方はちょっとはにかんで言葉には出ませんでしたがお辞儀をしてくれました。席を代わってあげただけであんなに喜んでもらえて幸せいっぱいの気持ちにつつまれていたとき、何となく後ろが気になって振り向いてびっくりしました。なんとあの親子が、プラットホームで一生懸命に私に手を振っているではありませんか。もしあのとき私が振り向かなかったらさぞがっかりしただろうなーと思うとともに、あの親子はそのことを期待せずにしてくれていたんだと思ったとたんじーんと胸が熱くなってきました。些細なことでこれだけ幸せな気分にさせてくれたあの親子に私は「ありがとう」と心からお礼を言っていました。

岡田 三千代
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